Share

第40話 訪問者

last update Dernière mise à jour: 2025-05-27 16:06:24

「ふぅ〜やっと家に帰れたわ」

自室にたどり着くなり、私はベッドの上に仰向けに寝転がった。

しかし……。

「嫌だわ……こんな部屋。落ち着くどころか、イライラが募ってしようがないわ。本来自分の部屋というものはリラックスする為にあるべきなのに、逆にいるだけで疲れてくるとはどういうことよ……」

黄金色に輝く高い天井なんて、金目の物に目がない人間にとっては歓喜するほど嬉しいかも知れないが、あいにく私にはそのような趣味はない。

「やっぱり落ち着く天井は白地にもっと低い天井で、壁紙も白地で、カーテンは落ち着く薄いベージュ色のような……そして部屋もこじんまりした広さがいいわよね……」

そこまで言いかけて私は、はたと気がついた。今一瞬、自分の脳裏に先程口にしたばかりの部屋のイメージが浮かんだのだ。

「え……? 何? 今の記憶は……?」

大の字に寝っ転がったまま目を閉じてもう一度今頭に浮かんだ映像を思い出そうとしても浮かばない。代わりに頭に浮かんだのは意地悪そうな笑みを浮かべた恐ろしいほど顔の整ったジョンの姿である。

「もう! 何でこんなに苛つく部屋で苛つく男の顔を思い出さなくちゃならないのよ!」

ガバッとベッドから起き上がった時、すぐ側で声が聞こえた。

「苛つく男……もしかしてそれは私のことでしょうか? ユリアお嬢様」

「キャアッ! い、いきなり背後から声をかけないでよ! し、心臓が止まるかと思ったでしょう!?」

バクバクする心臓を抑えながらジョンに抗議した。

「すみません、しかし気配を消して行動するのも護衛騎士の務めです。ユリアお嬢様の命を狙う輩に近付くには気配を消しておかなければなりませんからね」

「だ、だけどここは私の部屋。命を狙う輩なんているはずないでしょう?」

すると突然声色を変えてジョンが言う。

「本当にそうでしょうか……?」

「え……? な、何よ……」

「本当にこの屋敷にはユリアお嬢様の命を狙う不届き者はいないと言い切れるでしょうか?」

「ちょ、ちょっとやめてよ……そんなおっかない声で恐ろしいことを言うのは……」

鳥肌を立てながらジョンを見る。

「屋敷の中は安心だと思うのが、そもそもの間違いです。いいですか? ユリアお嬢様が落ちた池はこの屋敷の敷地内にあるのですよ? 何故あの時池に落ちたのか、記憶喪失のユリアお嬢様に言っても無駄な事ですが、少なくとも池に落ちる前までは
Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application
Chapitre verrouillé

Latest chapter

  • 記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした   第127話 大団円 <完>

    「どうもありがとう」御者にお礼を述べ、馬車を降りて校舎を目指して歩いていると背後から私の名を呼ぶ声が聞こえてきた。「ユリアーッ!」振り向くとその人物はマテオだった。「あら、おはよう。マテオ」「ああ、おはようユリア」「いいの? ベルナルド王子の側にいなくても」「ああ。もういいんだよ。何しろ王子の方から俺達に離れてくれと頼んできたんだから」「ふ~ん……何故かしらね」すると今度は背後で大きな叫び声が上がった。「「あーっ!!」「げっ! アーク! オーランド!」マテオの顔色が変わる。「マテオッ! 勝手に抜け駆けするな!」「全く何て奴だ!!」「うるさい! 俺の勝手だろうが!」アークとオーランドが駆け寄って来ると3人は私の頭の上で口論を始める。どうやらこの3人は私のことを取り合いっこしているらしい。そもそも何故3人がこのような行動を取る様になってしまったかと言うと、オルニアスの話によれば、ノリーンが仕組んだ事の様だった。私の方からベルナルド王子への興味を失わせようとする為に、マテオ達をオルニアスの魔力で私に惚れさせて、彼等に口説かせて誰かと恋に落ちてしまえば王子からの婚約破棄に応じるだろうと言う筋書きだったらしい。オルニアスはノリーンに命じられるまま彼らに私を好きになる魔法をかけ、結果彼らは私の虜? になってしまった。そしてオルニアスのかけた魔法が解けた後も何故かマテオ達は私に好意を寄せたままの状態だった。オルニアスの見解ではマテオ達はどうやら始めから私を好きだったから魔法が解けても何も変わらないのだろう……と言うことだった。「はぁ~……もう付き合ってられないわよ」私は激しく口論を続けるマテオ達からそっと離れると急ぎ足で校舎の中へ入って行き、偶然にもテレシアに会った。「あ、おはよう。テレシアさん」「おはよう~見たわよ。またあの3人に絡まれていたわね?」「そうなのよ……本当に嫌になるわ」今では私とテレシアは親友と呼べる仲になっていた。「それで? ベルナルド王子はどうしてるの?」2人で廊下を歩きながらテレシアに尋ねた。「あ? やっぱり気になるの?」「う~ん……まぁ多少は? 何しろあのノリーンと付き合っているんだから」「そうよね~でもいずれ別れさせられるんじゃないかしら? 何しろ結局は王族と平民の仲だからね」「やっぱり…

  • 記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした   第126話 話し合い

     呼び声に応えるかのように、突然何も無い空らセラフィムが姿を現し、私の前に立つとオルニアスと対峙した。「オルニアス。もうノリーンとユリアは和解したんだ。ノリーンはユリアの命を奪う事を願ってはいない。おとなしく魔界に帰るんだな」するとノリーン……いや、里美が声を上げた。「はぁ? ちょっと何言ってるのよ! 確かに和解はしたけれど、命を奪う事は願っているわよ? だって美咲の命を奪わなければ、私は一生彼から生活費と召喚代金としてお金を搾取され続けるのよ。冗談じゃないわ! 破産しちゃうわよ!」「ああ、確かに生活費は必要だな。おまけに魔力の全く無い人間に呼び出された為に人間界に現れるまでにえらく苦労させられたからな」オルニアスが頷く。「ノリーンには支払能力があまり無いんだ。少し位まけてやれないのか?」「ええ、そうよ。まけてちょうだいよ」セラフィムの言葉にノリーンは頷く。何ともスケールの小さい話を彼らは私抜きで始めた。「ちょ、ちょっと! 肝心の私を忘れないでよ!」ついに我慢出来ず、私は彼らの間に割って入ってきた。「どうした? ユリア」何故かオルニアスが妙に優しげな声で私を見る。そんな彼に警戒しながら訴えた。「お金が問題なら私が彼女の代わりにあなたに全額まとめて支払うから……お願いだから、そのお金を持って魔界へ帰ってちょうだい! そして二度と私の命を狙わないでよ!」「そうよ。ユリアが払ってくれれば、それでいいわ」「まぁ……ユリアは公爵令嬢だから、支払い能力はあるかもしれないが……」ノリーンとセラフィムが頷く。「……イヤだね」オルニアスは少しの間、私を黙って見ていたがそっぽを向いた。「何でよっ!!」里美はもう私には殺意は多分? 抱いていないのに、それでもオルニアスは私の命を狙っているのだろうか?「何でだって? それを俺に尋ねるのか? 前にも夢の世界で言っただろう? 殺すにはあまりにも惜しいって」確かに言われた気がするけれど……。すると次にオルニアスは耳を疑うようなことを言ってきた。「俺はユリアが好きだからな。傍にいたいから帰らないんだ。ユリアはもう王子のことはどうでもいいんだろう? だったら俺が相手でも構わないよな?」オルニアスが私の手を握りしめてきた。「はぁっ!?」その言葉に耳を疑う。「「ええええええっー!?」」ノリーンと

  • 記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした   第125話 死んでちょうだい?

    「ごめんなさい……美咲。私は前世で貴女に酷い嫌がらせばかりしてきたわ。それだけじゃない。交通事故に遭って死んでしまったのだって……私のせいなのよ……」里美が顔を覆って泣き始めた。「だから……だからきっと罰を受けたのね。前世の時よりも平凡な顔で生まれて魔法も使えない平民と言うポジションしか与えられなかったのよ……」「そ、それはちょっと違うと思うけど……」「いいえ! 違ってなんか無いわよ! 美咲は被害者だったから、公爵令嬢として……挙句にそんな美い容姿で生まれ変わることが出来たのよ!」そして里美は涙に濡れた瞳で私を見つめた。「美咲……今までごめんなさい……。だから……死んでちょうだい!」「はぁっ!?」いきなりの爆弾発言で驚いた。「ちょ、ちょっと待ってよっ! 普通、この話の流れなら、『どうか今までのことは全て、水に流してこれからは仲良くしてちょうだい』と来るのが筋じゃないの? それなのに、死んでちょうだいだなんて!」すると里美がヒステリックに叫ぶ。「だって仕方がないのよ! 呼び出した相手が言ったのよ! 『召喚者がこんなに未熟で魔力が全く無いとは思わなかった』って! それで……」 その時――「そうさ。この人間界に来るまでにどれ程の魔力を消耗たことか。普通なら召喚者の魔力を分けて貰うのだが、これっぽちも魔力を持っていないんだから驚きだよ」突然声が聞こえ、私と里美は慌てて声の方角を振り向いた。すると地面の上に光り輝く円が現れ、中からオルニアスが姿を現したのだ。「オルニアス! 生きていたのね!?」「ユリア…何を言っているんだ? 勝手に死んだことにしないで貰えるか?」オルニアスは呆れた様子で肩をすくめる。すると里美が声を上げた。「ほ、ほ、ほら! ここにターゲットがいるわ! 貴方にあげるから、これで契約も終わりよ! もうこれ以上付きまとわないでよ!」「里美……ひょっとして、あなたオルニアスに酷い目に遭わされていたの!?」オルニアスに生贄? として捧げられてしまうのは嫌だけれど、里美の置かれた状況も気になる。「人聞きの悪いこと言わないでくれ。俺はただ呼び出した責任を取って貰っていただけだ」呼び出した責任……? 一体何のことだろう? 私にはさっぱり見当がつかなかった。「呼び出した責任て何?」私は里美に尋ねた。「そんなこと、決まってるじ

  • 記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした   第124話 因縁の2人

    「そうだったの……? いくら前世の記憶を無くしてたからと言って、貴女には酷いことをしてしまったのね」「ええ、そうよ。魔法が存在しているファンタジーみたいな世界に生まれ変われたのよ? なのに私は少しも魔法が使えなくて……まるで『お前は余所者だ』と突きつけられているようで心細くてたまらなかったところに、あんたが現れたのよ。それに私と同様魔法が使えないことが分って、ようやく自分はこの世界に1人じゃないんだって思えた矢先……。あんたは私のことを馬鹿にして、意地悪ばかりしてきたのよ! だけどこの世界じゃ、あんたは公爵令嬢、そして私はただの平民。どうすることも出来ないじゃないの!」里美……ノリーンは憎々し気な目で睨み付けて指さしてきた。確かに私は記憶の中で彼女を散々虐めていた。自分が魔法を使えないコンプレックスをノリーンにぶつけてきたのだ。それは明らかにノリーンの方が私よりも立場が弱かったからだ。魔法も使えず、さらに平民である彼女は私――ユリアにとっては都合が良い存在だった。 里美の怒りはまだ続く。「だから私はあんたに仕返ししてやろうかと思ったのよ。王子が婚約者だって知って、あんたが王子に良く思われていなことが分ったから、誘惑してやろうかと思ったけど……。所詮、こんな平凡な容姿じゃ無理だったのよ。だからあんたに仕返しして色々やってみたけど、どれもうまくいかなかったわ。いえ、違うわね。あんたを始末するのに自分の手を汚したくなかったのよ。それで召喚魔法を使って魔物を呼び出したのよ。私の代わりにあんたの始末をして貰う為にね。幸い私の祖母が腕の良い召喚士だったから呼び出すことは造作なかったわね。尤も下級魔族しか呼び出せなかったけど」「え……? 下級魔族?」そんな……ノリーンが呼び出したオルニアスはどう見ても下級魔族には思えない。だって彼は堕天使なのだから。ひょっとすると、ノリーンは自分が何を召喚したのかわかっていないのだろうか? だけど、私はもう逃げ続けるのは嫌だ。それに、全ての記憶をとり戻した今、自分がどれ程嫌な人間だったのかを知っている。「ごめんなさい、ノリーン。いえ……里美」私は膝をつくと、その場に座って土下座した。「は? あんた……一体何してるのよ?」「いい訳になってしまうかもしれないけれど、この世界での私は本当にいやな人間だったわ。家で家族から見下されて

  • 記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした   第123話 私を憎む理由

    「それで何所で話をするの?」ノリーンが肩をすくませながら私を見た。ノリーンがこんな態度を私に見せるのは初めてだ。その仕草はまるで前世の里美そのものだった。「そうね。何所か静かな場所で話しましょう? お互いここで話をするのは色々まずいと思わない?」「いいわよ。だったらこの学園の校舎の裏手に林があるわ。そこなら人が来ないから、ゆっくり話が出来るんじゃないかしら?」「ええ……そこでいいわ」「それじゃ、行きましょう」ノリーンは踵を返すと、先に立って再び校舎の中へと入って行く。そして私はその後をついて行った――**** 校舎の中を突っ切り、裏口へ続く通用口を通り抜けると何も無い林が広がっている。確かにここだと人の目につくことは無いだろう。私の前に立って歩いていたノリーンがピタリと足を止めて振り返った。「それで話って何?」「ノリーン……いえ、里美。そんなに私が憎かったの?」ピクリと眉を動かしたノリーンは腕組みする。「…は? 誰よ? 里美って」「私は子供の頃、本当に貴女のこと親友だと思っていたのよ? それなのに気付けば貴女は私が付き合って来た男性達を奪っていったわね? 私はそこまで恨まれることをした覚えは無いけど?」するとノリーン……いや、里美は口元を歪めると吐き捨てる様に言った。「は? 親友ですって? ふざけないでよっ! 私はあんたが大嫌いだったんだから! だからあんたの恋人を奪ってやったのに、すぐに新しい恋人を作って……! 苦労してあんたから恋人を奪ったのに、結局すぐ皆私と別れたいって言ってきたのよ! あんたの方がいいと言ってね!」「え?」そんな話は初耳だった。「それだけじゃないわ……いっつもあんたの周りには人が大勢集まって……輪の中心にいる人気者で、勉強だって運動だって……何でも出来て、私の持っていない物全てを持っていた……羨ましくて仕方なかった。あんたといるだけで自分が駄目な人間に思えてずっとコンプレックスを抱えていたのよ!」「さ、里美……」「あの夜……あんたに恥をかかされて、それが悔しくて後を追いかけたら……よりにもよって交通事故で死んでしまうなんて……。目が覚めたら、魔法が存在するだとか、訳分らない世界に転生してるわ、しかも容姿だってこんなにさえないし、ただの平民として生まれ変わっしまったことにどれだけ絶望したか分る?それな

  • 記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした   第122話 決着の時

    「そう言えば、今は何時なのかしら?」ようやくベッドから身体を起こせるようになった私はセラフィムに尋ねた。「今は14時半を過ぎた辺りだ。恐らくまだノリーンは学校の授業に出ているだろう」「そうね。それじゃ出かける準備をするわ」「……今から学校へ行くのか?」「ええ、勿論。夢の世界で閉じ込めたオルニアスが現れる前にノリーンと決着をつけなくちゃね」「よし。覚悟が出来たってことだな?」「勿論よ」「なら手伝ってやるよ」セラフィムは指をパチンと鳴らすと、一瞬で私の服は制服に変わっていた。「すごい……やっぱり魔法って便利よね」するとセラフィムがしんみりした様子で言う。「だけど……俺はユリアのいた前世の世界を知った時に気付いたよ。ユリアがいた世界は文明がとても発展していた。恐らく魔法が存在しない世界だったから人々は努力して魔法なんか使えなくても便利な世の中になったんだろうなって。……いつまでも魔法にばかり頼っていては……駄目なのかもしれない」「セラフィム……」「よし、それじゃ行くか。ユリア」セラフィムが手を差し伸べてきたので私はその手に掴まった。「ええ」「空間移動するから目を閉じているんだ。目を回すかもしれないからな」「分かったわ」全く……ついさっき、魔法に頼ってばかりではいけないと自分で言ったばかりのくせに。思わず、苦笑しながら目を閉じた次の瞬間、セラフィムは空間を飛んだ――****「……」正門の前で私はノリーンが校舎から出てくるのをじっと待っていた。セラフィムには警戒されないよう、姿を隠しているように伝えてある。授業が終わり、校舎からゾロゾロと出てくる生徒達は腕組して校舎をじっと見つめている私を目にしてはヒソヒソと囁いている。その声は風にのって私のところにまで聞こえてくる。「見て、悪女と名高いアルフォンス公爵令嬢よ」「ここ最近姿を見せていないと思っていたのに……」「あんなところで何してるんだ?」「誰かを脅す為に立っているんじゃないか?」「本当に今世の私は嫌われていたわね……」でも全ての記憶を取り戻した今ならよく分る。本当に私は嫌な人間だった。公爵令嬢と言う立場を理由に、勉強も出来ないくせに威張り散らして親しい友人など1人もいなかった。どうして自分がそんな行動を取っていたのかは今となっては理由は分らないけれど。そんなこと

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status